十七、初めての拉麺(9)

「なんか、うちの実家の恥ずかしいところとかも見て来たんですか?」
「いや、なんにも。いいご家族じゃん。お兄さんよさそうな人だったなあ。なんつうの? 笑顔が爽やか。眩しかったね。兄弟でもいろいろ個性あるんだなあ。」
「兄貴のやつ、どうせ作り笑いでしょう。」
「そんな感じじゃなかったぜ。だって兄ちゃん大好きだろ?」
「どうでもいいじゃないですか。」
「どうでもいいわけないじゃん。」
「なんか、気持ち悪いですよ。家庭のことまで知ってる野郎に使われるってのは気分が悪い。」
「そうかよ。そりゃあ気の毒に。お生憎様。」
「そんなんだから友達少ないんじゃないですか?」
「一人でもいりゃ充分だろ。」
「まさかその唯一の友人が李隊長なんですか?」
「さすがに唯一ってことはないよ。片手の指で数えられるくらいの人数はいるんじゃねえかな。」
「それ超少ないじゃないスか。」
夷陵いりょうの戦いであらかたいなくなっちまったな。ふつうに周り見回してみて、俺くらいの年頃の奴あんまいねえじゃん? 二十代前半の若い奴の上はもう四十がらみのオッサンだ。だから季寧のお兄さんが同い年だって聞いて嬉しかったよ。こうしてちゃんと生活してくれてる人もいるんだなあってよ。」
「同い年には見えないですよ。だって隊長、五歳じゃないですか。」
「精神年齢な。」
「生地ちっともまとまらないんですけど。なんか、ひび割れ状態のままです。」
「ひたすら捏ねな。気合足んねえんじゃねえの? もっとこう、叩きつけろよ。」
「こうですか。」
「そうそう。その生地を俺だと思って力一杯たたきつけろ。」
「そんなふうに思ったら気持ち悪くて食えないですよ。」
「ああそうか。料理する時はちゃんと愛情注いで美味しくなあれって念じながらやらないとな。」
「隊長に愛情注いでまともになあれって念じながらお仕えしたらまともになるんですか?」
「ならねえ。」
「やっぱり。」
「人間は裏切るけど料理は裏切らねえってわけ。」
「まさかそういう理由で料理にはまってるんですか?」
「いや全然。だって俺ひとに裏切られたことなんかねえもん。俺が人を裏切ったことはあるけどな。」
「曹操みたいなこと言いますね。」
「そんな偉人じゃないよ。」



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