十七、初めての拉麺(8)

「いや、だってそれ不可能じゃないんですかあ? いつそんなことしてたんですか?」
「夜討ち朝駆け、時々昼間に馬の散歩がてら。一日に三、四軒ずつ回ったら先月で完了した。」
「え~、そんな話、初めて聞きましたよ。」
「だって口止めしといたもん。徹底した隠密行動。なんか、人が来るってなると、わざわざ掃除したりとかいろいろ気を使わせそうでイヤじゃん? だから非礼に奇襲するわけ。でまあ先方さんは見られたくもねえもんまで見られちまって、なんでえ突然来やがって無礼者、って、俺様の特徴をよく理解して下さるわけだ。」
「なんて迷惑な人だ……。」
「まあそう褒めるなって。拉麺の作り方も書いといたほうがいいかな。お母さん拉麺なんか作ったことある?」
「えっ、そのいま書いてるやつって、もしや俺の実家宛ての手紙ですか?」
「そうだよ。」
「ちょっと! やめて下さいよ!」
「あっ、この野郎、急に引っ張んなよな~。墨がビーってなっちゃったじゃんよお。」
「いいですよ。これ焼却。」
勝手に焼却のところに置く。
「じゃこの灰、どうする?」
「夜食作って下さいよ。」
「いま?」
「そうです。」
「ふうん。じゃあ季寧、生地捏ねるとこまでやってくれよ。そしたら俺伸ばして茹でるから。」
「え~、ヒマそうじゃないですか。隊長やって下さいよ。」
「ヒマじゃねえよ。俺がせっせと石臼を回してるの見ただろ? 今日中に山椒を粉にしとこうと思ってがんばってたんだ。これ終わったらつゆ作るんだから。忙しいよ。」
「軍人なんですよね?」
「分類上はそういうことになってるらしいな。へっへっへ。」
しぶしぶ粉を捏ね始める。まさかマジに麺作りをやるハメに陥るとは思ってもみなかった。俺が真面目に拉麺作りをやる時には、水の温度を隊長に確かめてもらうなんていうことはしないんだ。俺はそういう奴だ。隊長の野郎、このあいだは「耳たぶくらいの温度でいいんですかね?」なんて可愛く確認するという俺らしからぬ行動にひっかかって罠にはまりやがって。迂闊うかつな奴め。



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