十七、初めての拉麺(6)

 什長のところに戻る。李叔遜りしゅくそんが笑いながら
「どうしたの? ヒマなの?」
と聞いてきた。
「おー超ヒマ。脳みそ腐りそう。」
「なんで? 隊長やることねえの?」
「逆だよ。なんか、珍しく真面目に書き物するらしいぜ。」
「似合わねー!」
ゲラゲラと笑う。
「あいつ何やってりゃ似合うんだろうな。」
「やっぱ燕人張飛えんひとちょうひここにありって暴れてる時じゃねえ?」
夏侯幼権かこうようけん、見参! だろ。」
「そう言やお前、マジに拉麺作る気なの?」
「え、なんで?」
「なんかヨモギの葉っぱ集めてたじゃん。」
「集めてねえよ。そこらへんに生えてたからなんとなく採ってみた。」
「なんに使うの?」
「えー、べつに決めてねえ。」
「やっぱ拉麺作りたいんじゃねえの?」
「ありえねえ。」
「じゃあ焼いて持ってって隊長に拉麺作らせようぜ。」
叔遜が俺の私物の中から勝手にヨモギを探し出し、メシを蒸しているかまどの下に無造作に放り込むと、炊事当番が
「あっ、なにすんだえ!」
と怒った。当然の反応だ。叔遜がへらへらと笑いながら
「隊長に拉麺作らせようぜ。」
と言うと、
「ああ、ヨモギの葉か。」
とすんなり納得される。このあいだの俺の体を張ったおとり作戦以来、拉麺の材料は隊員たちに広く知られるところとなっているらしい。
「黒こげになったけど、こんなんでいいのかな。粉々になってなんか他のもんと混ざってるけど。」
「なんでもいいんじゃねえ? なんか、灰なら何でもいいらしいよ。ヨモギの灰だと香りよく仕上がるっつってた。」
「へえ~。そういう細かいとこでちょっとずつ工夫があるんだろうな。」
確かに。いつも一見普通っぽいものを作っているのに何食っても旨いっていうのは、たぶん細かいところにちょっとずつ工夫があるからなんだろう。とぼけた顔してしたたかな野郎だ。
「俺これ持ってくのイヤだなあ。」
「なんでよ。」
「なんか怒られそうじゃん。このあいだ二度も騙してよ、どさくさで叱られなかったけど、これ持ってったらなんか話が蒸し返されそうじゃん?」
「べつに怒んねえだろ。あの人個人に対してなにやっても怒んねえじゃん。」
「なんか、イヤミにネチネチ言うからいやなんだよなあ。」
「本人は普通にしゃべってるつもりなんじゃねえ? つまり素がイヤミってこと。」
「あー、それ、なんかスゲエ納得する。」
「じゃあメシのあとこれ持ってってくれよ。夜食作ってもらおう。」
俺達のような若い肉体労働者は、食前や食後にガッツリおやつを食うことに何の違和感もない。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: