十七、初めての拉麺(12)

馬鹿話をしながら隊長のところに戻る。と、俺の顔を見るなり期待に違わず
「おう、素早かったな、腹ペコ小僧。」
と言われた。笑顔で言うから憎めない。
「べつに早くありつきたくて素早かったわけじゃありませんよ。自分、常に迅速な精兵なんです。」
「そいつは失敬。恐れ入りました。」
粒のままの山椒をジャーッと熱する刺激的な香りがする。立ち上る湯気と油の音に心が躍る。
「今日のは何風味なんですか?」
「刺激的な西川せいせんの味。」
別の鍋に準備してある出汁だしを山椒の鍋にザッと注ぎ、葱や生姜をドバドバと入れる。なんといい匂いでしょう。
「季寧、自分で麺伸ばしてみる?」
「えっ、なんで?」
「だって、せっかく自分で生地捏ねたから。やってみねえ? 面白いぜ。」
「え~、イヤですよ。絶対ヤダ。どう考えたって失敗しそうじゃないですか。」
「ここまでちゃんと生地ができてれば、もうどうやったって不味まずくはならねえよ。どんな形にするかはお好みしだい。延ばして刻めば手擀麺ショウガンメン、ちぎってつぶせば圪坨児ねこのみみだ。」
「拉麺食いたいですよ。」
「じゃあやれば? 伸ばし方教えるよ?」
「季寧、自分で生地作ったの?」
嫌々いやいややったんだよ。隊長が石臼回すのに忙しいっつうからよ。」
「へえ~、面白いっスね。これ、このあいだの罰ですか?」
「ケッケッケ。」
なんだと? そういうことか。クソッ!
 隊長が生地を引っ張ったり、くるくると捩じったり、鮮やかに生地を伸ばしていく。途中までやりかけて
「引っ張ってみねえ?」
と聞いてくる。
「やらないですよ! やるわけないし。」
「叔遜、やってみる?」
「え~、いいんですか? やりたいです。」
「ハイ、どうぞ。こことここ持って。うんうん、そうそう、上手いじゃん。」
「わわわわ、切れる!」
「畳めば?」
手を添えて教えてやっている。和気あいあいとやりやがって。
「なんか、明らかに右と左で太さ違いますよ?」
「大丈夫大丈夫、旨そうだよ。」
俺、料理なんか興味ねえんだよ。早く食わせろ。
「ハイ、じゃそれ鍋に投入して。ほら見ろ、麺が泳いでるぜ。楽しいだろ?」
「麺が楽しそうにしてますね。」
「あははは、いいこと言うな。」
なにが楽しいんだよ、こいつら。
「はい、じゃお椀に投入。つゆを注ぎかけて下さい。」
麺からも汁からももうもうと湯気が立ち上っている。
「んで、ここに香菜シャンツァイとか松の実とかあるからお好みでどうぞ。ハイ、完成~!」
隊長と叔遜が瞳を輝かせながら拍手をしている。俺、おいてけぼりだ。
「ああ嬉しいなあ。今日は二人に作ってもらった拉麺が食える!」
幸せそうに両手で椀を押し戴いている。
「言われるがままに捏ねただけですよ。」
「太さバラバラです。」
「旨そうだよ。食おう。」
椀に顔を近づけると、馨しい熱風が鼻腔を刺激する。油膜を纏った麺が躍りながら唇を通る。山椒が口の中に外に弾けてはしゃぎ回るなかに、ほんのりと甘い出汁だしの味。からいのに、甘いんだな。俺が嫌々捏ねて叔遜がバラバラの太さに仕上げた麺だ。つるっとして、しこしこっとして、やっぱり甘い。蜜もなんにも入れてないのにな。不思議だ。
 隊長、また泣いてる。なんなんだよ。頭おかしいんじゃねえか。ついてけねえ。



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