十六、定軍山の十一日間(7)

 七日目だ。昨日は悲しい一日だった。俺達のおやつもむざむざ犠牲にしたし、戦いにも負けた。しかし敵も相当の痛手を受けているはずだ。なにせ、仲間割れをしているのだから。我が軍の屯長たちが軍議を行っている。
「なんとか夏侯栄を攻略する手はないものか。」
「あいつこそ、食い物でつられるんじゃないか?」
「敵陣の目の前に調理台を用意して、誰か不器用な奴に小麦粉でも捏ねさせて、『隊長~、ちょっと教えて下さ~い』とでも言わせれば、のこのこと出て来そうだな。」
「それいいね。周りに伏兵を置いといて、呑気に小麦粉を捏ね始めたところで一斉に矢で滅多打ち。」
意地悪そうに笑っている。う~ん、一斉に矢を射かけても、隊長はそうそう怪我もしなさそうだが、おとりで小麦粉を捏ねに行ってる奴が可哀相だよ。と思いながら傍観していると、あろうことか、陳屯長が俺に向かって
「季寧、行ってくれるか。」
と訊ねた。
「えっ……いいですけど、なんで俺?」
「お前、隊長を乗せる勘所かんどころが分かってるだろ。」
「そんな見え見えの策にひっかかりますかね。馬鹿じゃあるまいし。あ、そうだ、馬鹿なんだった……。」
屯長たちはニッコリと笑った。
「人でなしですね。まあ、いいですよ。韓英を仕留めるためなら。」
何故か夏侯栄とは呼ばず隊長の実名で呼び、俺は悲壮な覚悟をかためて出て行った。



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