十四、一心同体(4)

こう屯長!」
隊長が怒鳴る。陳什長は黄屯長の部下なんだ。
「新入りがみんなについて来れるようにしっかり面倒みろっつったろ。なんでボケっと見てやがる、このボンクラめ!」
黄屯長は素早く新人のところへ駆け寄ると、刀とかぶとを引き剥がして持ってやり、新人の手をひっぱって走りだした。隊長はやや機嫌を直しながらも、
「遅え遅え、遅えぞ~!」
と言いながら石を投げつける。投げながら散兵戦も続けている。
「オラ遅っせえ! 遅っせえんだよ!」
ポカスカ石を投げつける。前を走っていた連中も戻り、鎧を脱がせて持ったり背中を押したりしてがんばっている。
「ほら遅えぞ~!」
しまいには新人を担いで走りだした。隊長はゲラゲラと笑いころげた。
「ギャハハハ、遅っせ~。さすがに人間を担ぎながら全速力ってムリあるだろ。ギャハハハハ。」
笑い転げながらもご満悦だ。
「馬鹿かよ。自分で走らせろ。ほら叔偉しゅくい、頑張んな。この荷物持ってくれてる優し~い先輩たちにいっつも遅れずついてくんだぜ。」
優しい声で言いながらも散兵戦でかかってくる奴らをボカスカとぶちのめしている。そして時々思い出したように石を投げつける。なんて器用な奴だ。
 俺の横で見ていた仲胤ちゅういん
「いい隊長さんじゃないですか。」
と言うので、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「えっ、なんで?」
もしやこいつもちょっと変人なんじゃなかろうか。
「おまえ見てなかったの? あいつ部下に石を投げつけるんだぜ。だめだろ、そんなの。」
「でも当たんないように投げてましたよね。」
「え~、人に向かって石ころ投げちゃだめだろ。お母さんに叱られるぜ。」
言ってるうちにだんだんムカついてきた。
「どこがいい隊長さんなんだよ。怖えばっかじゃねえか。『隊長さん』なんて他人事みたいに眺めてるからそういう感想になるんだな。俺らあのイカれたオッサンと一心同体になって戦わなくちゃなんねえんだぜ。悲劇だよ。」
「一心同体ですか。」
「いや、俺もべつにそんな覚悟はないけどさ。でも実戦になったらたぶんそう。オエ。最悪。悲劇だ。」
仲胤は呑気に笑っている。この落ち着きようは一体なんなのだろうか。俺より二歳年上で、三年後輩だということは、シャバでの人生経験が俺より五年長いということだ。いい年になるまでシャバで過ごした野郎というのは、一味違う。



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