十二、苦肉の計(7)

「隊長に万が一のことがあったら我が隊はどうなるんですかあ?」
「べつに俺いなくても困んないでしょ。じっと防御かためて援軍待ってるだけなんだから。」
「じゃあじっと待ってましょうよ! なんで短気起こすんですか!」
「短気な人だからじゃない? ひゃっひゃっひゃっ、て! てめえらのヘナチョコ矢じゃあ我が軍の最新鋭の超防御力高い鎧は貫通しないよーだ。ほれほれ。うわ痛て! でも貫通してないよーだ。もっとてもっとて、全部っちまえ、この税金泥棒! 痛ててて、死ぬ! なーんてうっそー。死なないよーだ。くーっ、キクー!」
馬鹿丸出しだ。けっこう長いことそうしてふざけていたと思うが、とうとう敵が呆れて射ち方を止めにした。
「やっと気付いたか馬鹿野郎、矢の無駄遣いは罪だぜ。この一本一本すべてが祖国の良民の血税で賄われてるんだぜ。納税者の皆様に泣いてお詫びしろよ。申し訳ございません、貴重な矢を無駄に放ってしまいましたってな。そんな気ないならとっととうちの皇帝に国を挙げて降伏しやがれ。納税者のみなさんもお喜びになることだろうぜ。ところで弓の部隊長の宋さんってのはどちら?」
弓の部隊に立っていた宋という旗が振られ、その下に立っている鬚面ひげづらの鎧武者が拳骨を握った右手を上に挙げた。
「てめえが税金泥棒の親玉か。くたばれ!」
言葉とともに宋隊長がかぶとを押さえてよろける。何が起こったのだろうか。
「あ~外した! 惜しい! と見せかけて、さよなら!」
次の瞬間、たっぷり一丈はあろうかという血しぶきを立てて宋隊長が視界から消えた。敵の陣営にどよめきが起こる。
「あれっ! 今の、なんの魔法ですか?」
「魔法じゃねえよ。とう。」
いつの間に投げたんだろう。なんか、分かんなかったんだけど。背後の俺達の部隊からは歓声が上がっている。
「さて、帰ろ。季寧先に歩いてけよ。俺あとからついてく。」
「えー、ちゃんとついて来て下さいよぉ。やんちゃしちゃだめですよ。」
「ちゃーんとついて行くから、決して後ろを振り返るなよ。分かった?」
「分かりました。でもなんでですか? ドキドキしますよ。まさか背中に落書きする気じゃないでしょうね。」
「それ面白そうだな。あとでなんか描いといてやるよ。」
背後で敵がどよどよと言っている。宋隊長はたぶん即死だろう。馬で追いかけられたり矢を射かけられたりしたらやっかいだが、動揺がおさまらないうちは何も起こらないのではなかろうか。
「もし馬で追われたら――」
「シッ。静かに。」
え、なんでだろう。まあいいけど。黙っときます。



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