十二、苦肉の計(6)

 隊長と連れションをする。これが今生のションベンのしおさめになるかもしれない。しかしどうかな。死ぬ時にはやっぱり漏らしそうな気がするが。見た目に明らかにビショ濡れになっていなければそれでいいんだ。だから、今ある分を出しておいて、量を減らしておくのはいい考えだ。
 隊長はひょいと盾を手に取ってぶらぶらと歩いていく。俺も隊長もとりたてて特別な準備は何もない。ここに足止めを食って以来、昼も夜も武装を解いたことはないんだ。ちょっと緩めるとか着くずすとかいうコツはあるが、一瞬で着直せる範囲だ。なにせ敵は百歩の位置にいるのだから、着っぱなしでなければいざという時に間に合わない。
 久々のお散歩だ。雨上がりのしっとりとした空気が気持ちいい。昨日糞便を捨てた箇所を避けながら、糞便の状況をちらりとのぞいて満足げに歩いて行く。どこまで行くのだろうか。
「あの、どこまで行くんですか?」
「敵さんとおしゃべりできるところまで近付いてみよう。下向いとけよ。急に矢が飛んできて顔面直撃したら危ないから。そんで俺の真後ろ歩いとけ。」
俺はてっきり隊長の遺体を回収する係なのかと思っていたのだが、そうではなく、旗を持つ係だった。さっき旗手から借りてきた旗を持って隊長に続く。それにしても敵に近付き過ぎだろう。どこまで行くんですか。敵の声が聞こえてきた。
「降伏か?」
「自己紹介に来たんだ。俺は鎮北ちんほく将軍麾下きか部曲督ぶきょくとくで、韓英、あざなは異度、出身はだいだ。よろしくな。俺を倒したら、部曲督の韓英とかいう雑魚ざこを仕留めましたって、曹真そうしんにせいぜい自慢してやりな。でどうする? 俺こんなに近くに来たけど、自慢の矢で滅多射ちにしてみるかい? それとも追っかけて捕まえる? 言っとくけど俺かけっこ速いぜ。」
「影武者か? 失せろ。」
「ギャハハハ、馬鹿かよ。無名の部隊長にわざわざ影武者なんか立てるかって。それに隊長じゃねえ奴をここに来させんなら、もっとお利口そうに見えるカッチョイイ奴を立てるだろうぜ。あんた方が三日もかかってじっくり相手にしてる面倒くせえ歩兵の部隊長はこんなガッカリ野郎だったってことだ。へっ、ざまあみろ。」
ふうん、自分がどう見られてるか、ずいぶん正確に把握しているんだな。影武者なんじゃないかという疑念が解けたかどうかはさておき、とにかくイラつく野郎が眼前に現れたとばかりに、敵からは一斉に矢を射かけてきた。
「ひゃっひゃっひゃっ、来た来た!」
水平にビシバシと飛んでくる。盾で覆いきれない部位は鎧にザクザクと刺さっていく。
「あのお! 隊長! 危ないですよ! こんなことやって何になるんですか!」
「絶好の暇つぶし。」



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: