十二、苦肉の計(1)

 翌日はまたカラリとした晴天となった。朝からビシバシと矢が飛んでくる。大した威力はないが、うっとうしい。ここに足止めを食ってからもう四日目だが、味方の援軍は来ないのだろうか。この場所を発見できずにウロウロしているのだろうか。それとも、ここにこんなに大勢の人馬が割かれているくらいだから、将軍のところには更に多くの敵部隊が押し寄せていて、こっちまで手が回らないのだろうか。長安からの敵の増援部隊が続々と我が軍の補給路を断ちに来ているとしたら、そう考えるのが自然だ。
 隊長はそんなことには頓着せず、楽しげに水瓶みずがめの中に西域の銀貨を投入している。陳屯長が興味津津に覗きこみながら尋ねた。
「これもやはり水当たりを防ぐためですか?」
「そ。俺はこの方法を馬鹿の一つ覚えみたいに信じてるわけ。」
「今のところ下痢や腹痛を訴えている者はいません。」
「結構なことだな。」
満足げだ。
「しかし隊長、全員に一枚ずつ銀貨を配るなんて、よく予算が下りましたね。」
「ああ、あれ別に国庫から出てるわけじゃないんだ。」
「えっ、じゃあ出所はどこなんですか?」
「もとは国庫だけどな。なんか、思いもかけず役立つ仕事をしちまったって時に、国からご褒美が出るってことあんじゃん? そういうのがちょくちょくあって積もり積もったまま放っといたんだけど、今回パッとバラ撒いたわけ。」
「え! じゃあ隊長の私財ですか!」
「私財って感じしねえけどな。知ってる? 褒賞もらっても、ケチんぼだからしれっと目録くれるだけで、わざわざ請求しないと貰えねえんだぜ。で面倒だから放っといたんだ。そのまま俺様がめでたく戦死でもした日には、褒賞もめでたく国庫に戻るとこだったんだけどな。今回ガバっと受け取ってやった。へっへっへ、ざまあみろ。」
「ざまあみてるのは隊長ですよ。何やってんですか。どうしてそんな、お金をばら撒くようなことをするんですか。」
「実は水当たりのお守りの効果を実証してやろうという魂胆だ。よその部隊に比べてうちの腹を下す奴の人数が格段に少なかったら、効果ありと思っていいんじゃねえかな。本当は部隊の中でお守りある組とない組に分けて対照実験したほうがいいんだけど、そうすっと銀貨貰えねえ奴が文句言いそうだから断念した。」
「なんて酔狂な。そんな大金があったら南鄭なんていの一等地にお屋敷でも建てればよかったじゃないですか。」
「ギャハハハ、一等地にちっぽけなお屋敷? しかも家財を買う金も残らねえ。へきいたずらかこむってやつだ。ギャハハハハ。あー可笑しい。可笑しすぎる。ギャハハハハ。そんな、なんにもねえ空っぽの家に一人ぼっちで住めってかい。そりゃあ一体なんの罰だ? ギャハハハハ。」



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