十一、蟻地獄(3)

馬鹿話をしながら街道を北へ南へ往来する。街道を外れて丘にのぼったり東に向かって陳倉のまわりを遠巻きにうろうろしたりする。遠足気分で釣りをしたりお弁当を食べたりして遊び、若干陳倉を通り過ぎながら街道のまわりをうろつきまわる。と、不意に隊長が停止を命じ、周囲をぐるりと見まわした。
「この場で物音立てずに待機してろ。伏兵の時みたいにピタっと静かにしてるんだぜ。」
かめの中に水を入れ、それを持ってぶらぶらと部隊から離れていく。二十歩ほど離れた地点に甕を置き、水面を観察する。なんのまじないだろうか。その後も様々な奇怪な行動が見られた。空を観測し、鉄球を地面に転がし、しまいには自身が地面に寝そべって耳を当てる。やがて戻ってきて、何事もなかったように
「さて、帰ろう。」
と言った。
「え~、もう帰るんですかあ?」
「まだ早いですよね。」
「そうかな。遅すぎたかもしんねえぜ。まあいいけどよ。」
こう言うとひゃっひゃっひゃっと笑った。
 なんだか分からないが慌ただしく帰路につく。街道ではなく、街道を眼下に見下ろす丘陵を進む。なだらかな丘を登ったり下ったりするうちに、背後に忽然と魏の騎兵隊が現れた。
「ひゃっひゃっひゃっ。おいでなすった。」
楽しそうだ。
「一っ走り将軍にお手紙届けてくれる人募集。二人一組、先着二組ね。」
こう言いながら絹に書いた文書をヒラヒラさせる。
「あれっ、それいつ書いたんですか?」
「いま馬に乗りながら書いた。」
「器用ですね。」
「ひでえ字になったけどな。将軍に怒られそうだ。もっと読みやすい字で書けよって。」
二人一組で立候補した先着二組さんに、各組一通ずつ書面を手渡しながら説明する。
「その街道を西に五十里ほど進んだら左手に陣が見えてくるから。で、街道を堂々と歩いてると敵に捕まっちゃうかもしんねえから街道沿いの丘とか木立とか選びながら行ってくれ。二組に分かれて、それぞれ別の道を行くんだぜ。敵に知られて困るような内容じゃないから、もし万が一捕らえられたら大人しく渡しちゃっていいからな。はい、じゃ今の話まとめて復唱して。」
まとめて、って、いちいちまとめなきゃいけないようなダラダラした喋り方してちゃダメじゃん。四人がちょっと考えながら内容をまとめて復唱すると、隊長はにっこりと笑った。
「はい。よくできました。じゃよろしく。気をつけて。」
ぽんと背中を叩いて笑顔で送り出す。そして何事もないかのように行軍を続ける。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: