十、陳倉城(7)

「しかしお前、ここで憎い隊長を仕留めようとたくらんで万一いっしょにくたばっちまったら悲劇だな。生きてる間なら憎たらしくてもいつかは上手く別れる手立てがあるがよ、ここでおんなじ場所の土になっちまったら、未来永劫いっしょだぜ。ケッケッケ。やる時はよくよく考えて上手くやれよ。俺はべつに季寧といっしょにくたばるのはやぶさかじゃないけどな。あの世でのいいヒマつぶしだ。」
「え~、絶対ヤダ。なんとか上手に一人で死んで下さい。」
「それはお前の腕次第だ。ま、がんばりな。」
「なんなんですか、その『隙があればいつでもかかってくるがよい』みたいな態度。」
「俺がお前の隙を狙ってるんだぞ。油断してナメてかかってきたら一撃必殺。」
街亭がいてい壇中だんちゅう打ち仕損じたくせに。」
「あれはわざわざ『死ね』って声かけてから打ってやったんだ。合図しときゃあ死なねえと思った。もし本気で殺るつもりならあんな派手にぶっ飛ばさねえで普通にニコニコ雑談しながら近寄ってモミモミっと嫌味な打ち方して地味に心停止させるよ。」
「…………。」
怖すぎて二の句がつげない。馬がお利口にカポカポと歩く足音が響く。
「……春になったら、こいつ野獣になっちゃうんですよね?」
「春じゃなくても、カワイ娘ちゃんの匂いがしてきたらダメなんじゃねえ?」
「でも馬の発情期って春ですよね。」
「野郎のほうは年中やる気満々らしいぜ。」
「へえ、そうなんですか。なんだ。春になったら別人のように暴れるのかと思って期待しちゃった。」
「別人、っつうか、別馬?」
「今回の遠征、春まで長引くってことあるんですかね。」
「さあ。」
「知らないんですか?」
丞相じょうしょうのことだから、機に臨み変に応ずとか言うんじゃねえ? そういうの好きだろ、あの人。」
「丞相じゃなくて右将軍ですよ。」
「ああそうだっけ。」
「遅くとも夏までには帰らないと、麦の収穫が間に合わないですよね。」
「麦ほっといてでも一気呵成いっきかせいにやっちまったほうがおトクって判断したら、夏も続行かもよ。」
「あんま長引くと補給が追いつかなさそうじゃないですか?」
「へえ、そういうこと考えるんだ。お利口さんだな。」
「だって道が険しすぎますよね。幅も狭いし。全員が毎日食ってこうと思ったら休みなく輸送し続けないと間に合わなさそうじゃないですか?」
「このあいだみたいにどっかの郡が降伏してきてどうぞうちの兵糧使って下さいって言ってくれたらオイシイけどな。」



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