十、陳倉城(2)

「で、どうすんの?」
「べつにどうもしませんけど?」
「え~? 危なくないのオ?」
「さあ。そんなに暴れませんけどね。」
「だってこれから山道だよ? 狭いとこで暴れて崖とかに落っことされたらどうすんの?」
「落っことされたらどうするか? まあ、道に復帰できるなら復帰するだろうし、それができなきゃ野垂れ死にですかね。ギャハハハ。」
「ギャハハハって、笑ってる場合じゃないよ。」
「野垂れ死に! クックック、ウケる。」
「ウケてる場合じゃないよ。だからさあ、危ないからもっと安定した馬に乗ってけば?」
「心配して下さってるんですね。ありがとうございます。まあ大丈夫なんじゃないかなあ。」
「ふうん……ま、いいけどさ。早いとこ去勢しちゃったほうがいいよ。いつまで放っとくつもり?」
「一生去勢させる気ないですよ。」
「え、なんで? だって危ないよね。」
「そんなに言うほど危ないですかね。」
「去勢したほうが絶対楽だって。意地っぱりだなあ。」
「だってあいつ将来種馬にする目的で私にあてがわれたんじゃないんですか? 玉追ぎょくついの孫ですよね。歩兵の指揮官なら無理させずに乗ってくれるだろうということで預けられたと思ってるんですけど。」
「アハハハ、違うよ。おめでたい人だなあ。みんなキミが暴れ馬に振り落とされるところを見たくてそいつを押し付けたんだよ。歩兵出のペーペーが馬なんか乗りこなせるわけないザマミロって笑ってやるためにさ。」
「考えすぎじゃないですか?」
「違うよ。キミがおめでたすぎ! 去勢すればしたで、あいつの馬術の拙さのためにいい種を絶ってしまったっていじめるつもりで手ぐすね引いて待ってるんだよ。だから玉追の孫なんだよ。」
「そんな意地悪そうな人だれもいないじゃないですか。」
「意地悪なんだって。分かんないの? みんなほーんと底意地悪いんだから。忙しさにかまけて人間らしい心を失ってるんだね。」
「まっさかあ。」
「みんながキミみたいに善人だとは限らないよ。魑魅ちみ魍魎もうりょうなんだから。気を付けて! キミほんとお育ちがいいんだねえ。こういう心のきれいな人は傷つけられないように守ってあげなくちゃ。キミの純真な笑顔を守るのはこのオレ。」
「ぷっ。」
「あれ、なんで笑ってんの?」
「おかしかったものでつい。」
「オレなんかおかしいこと言ったかな。」
「失礼しました。ちょっと耳慣れない言葉を聞いたもので。」
「いい種を絶やしたとかそしられたってかまわないから、意地はってないでさっさと去勢させたほうがいいよ。そんなことはみんながやってることなんだからね。」
「そういう選択肢について考えたことありませんでした。じゃ後日検討してみます。今回は間に合わないんでとりあえずこのまま出発。野垂れ死んだらいい弔辞読んで下さい。」
「えっ、いい弔辞読める要素ないよ? 笑える弔辞になっちゃいそうじゃない?」
「ギャハハハ、それいいですね。せいぜい愉快な弔いをして下さい。」
「ちょっともう、なんの話? 敵の拠点に到達する前に落馬して死亡なんてありえない!」
「せいぜい気をつけます。」
愉快そうに笑っている。今日は上機嫌だ。



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