十、陳倉城(13)

 翌日は早々から前日撤去した逆茂木の先にある堀を埋めていく。地味だ。前日に引き続き、城からは何もしかけてこない。そういえば、結局夜襲もなかった。やっぱり単に城の人手が足りないだけなんじゃなかろうか。
 隊長は退屈げにぶらぶらと歩き回りながら、せっせと作業する俺達に茶々を入れて遊んでいる。いま一体俺達は何をやっているのだろうか。実戦だ。城攻めだ。しかし訓練よりもよほど退屈だ。油断しきっている時に、隊長がふと
「おっと危ねえ。ギャハハハ、やってくれるぜ。」
と笑い始めた。手に矢を持っている。
「見て見て、これ狙撃。立派な矢だなあ。名前が彫ってあるぜ。隴西ろうせいちん子玉しぎょく。きっと名人なんだろうな。ありがたや。」
「なんで自分を狙って飛んで来た矢をありがたく拝んでるんですか?」
「名人にあやかって俺もなんか戦技が向上するかもしんねえじゃん?」
みんな口々に隊長をいさめる。
「それ以上向上したらよけいやっかいですよ。やめて下さい。むしろ退化して欲しい。」
「指揮官なんですから。変に腕自慢だとあだになりますよ。」
「武術が邪魔になるってこともあるんです。ほどほどにして下さい。」
「おうおう、みなさん俺が弱っちい指揮官でいるほうが嬉しいってかい。丞相みたいに四輪車に乗って指揮してやろうか。ギャハハハハ。」
ふうん、狙撃ねえ。作戦行動中は隊長のいる場所に常に隊長旗が同行しているから、旗を見て部隊長がここにいると分かって狙ったのだろう。そんな、わざわざ狙って殺すほどのタマかよ。ただブラブラと暇そうに遊んでるだけの呑気なオッサンじゃないか。しかし敵は俺達の隊長がどんな人物であるかなど知らないから、きっと狙撃するに値する有能な部将であると勘違いして狙ったのだろう。お生憎様だ。
 堀を埋め終わり、午後には二段目の逆茂木の撤去にとりかかる。ここはすでに城からの矢の射程範囲内だ。ここぞとばかりにザンザカと矢が飛んでくる。面倒くせえ。昨日練習した通り、盾をかまえながら作業する。隊長も盾をかざしながら、依然として暇そうにブラブラと歩き回り、時々
「ほら昨日師範が言ってたじゃん。この隙間から額に直撃するぜ。」
と隊員にデコピンをかましたりしながらみんなの盾の構え方を修正してまわる。まったく泥縄式だ。盾の構え方が悪いのを直してもらえるのはありがたいが、敵の射手のなかの腕自慢の奴らはこぞって将校を仕留めようとしているらしく、隊長の周りにはふつうの矢より勢いのありそうな矢が常にビシバシと飛んでくる。隊長は上手に盾を使うから何事もないのだが、そばにいる隊員達はたまったものではない。
「わー、隊長来ないで!」
「シッシッ。」
「ギャハハハ、ひでえ。それ人間に対する態度じゃねえ!」
シッシッと言った奴の首に腕をまわしてまつわりつく。



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