一、焚火たきび(7)

 朝礼の合図、鳴ったかな。起床も朝礼も太鼓の音で知らされるのだが、音が鳴り始めてから動き出して、鳴り終わるまでに整列していればいいんだ。ひとしきりの時間ドコドコと鳴り響くから聞き逃すわけないのだが、隊長のふるまいに呆気にとられて耳がバカになっていたのかもしれない。
 隊長に従って営庭に出る。誰一人いねえじゃねえか。隊長の野郎、幻聴でも聞いたんじゃなかろうか。いぶかっていると、おもむろに朝礼の合図が鳴り始めた。……なんすか、これ。体内時計で一足先に動きだしたってこと? ほんとにせっかちな野郎だな。体内時計の正確さにもびっくりだ。噂通り偃師偶人アンドロイドなのかも。
 戦友たちがバラバラと走って来る。隊長は腕組みをしてニヤニヤとみんなが出て来る様子を見守っている。最初に出て来た数人が、正勤務兵の俺に付き従われているちょいと身なりの良い三十がらみの男を発見して興味深げに寄って来て声をかける。
「おはようございます。」
隊長は笑顔であいさつを返した。
「おはようございます。」
ございます口調であいさつを返されて戸惑いながら、おずおずと訊ねる戦友たち。
「あの、新しい隊長ですか?」
質問のしかたが幼児並みだが、俺達の知性はその程度だ。
「そ。今日からね。よろしく。」
笑顔だ。この人、第一印象いいよな。すげえ爽やか。優しそうに見える。でも中身はせっかちなオッサンだ。
 大多数の隊員がドカドカと営庭に出て来て、隊長の周りに人だかりができた頃に、隊長が
「そろそろ太鼓鳴り終わるぞ。」
と言った。みんな慌てて定位置を目指して走る。バラバラと位置に並びきらないうちに太鼓が鳴り終わり、隊長は大笑いした。
「ギャハハハ、ダッセー!」
腹をかかえて笑っている。なんだ、その反応。上官の態度じゃないよな。上官だったら「コラ!」とか「なっとらん!」とか、なんか叱らなくちゃだめじゃん。爆笑してるだけってどういうこと? 上官じゃなくて、先輩だな。
「みんなやけにのんびりしてたからよお、すげえなコイツら神行法の心得でもあるのかよと感心しながら見ていたら、なんのことはねえ。間に合わねえでやんの。やってくれるよなあ。」
うわ~、嫌味~! 超イヤな奴!
「季寧も列に入って朝礼も訓練も普通に受けといてくれる? 用事があったら呼びます。」
こういう、時々使ってくる丁寧語も意味分かんねえし。
「はい。かしこまりました。」
勤務兵をずっと身近に置いとく将校もいるが、隊長は俺を従卒として使うよりは戦闘員の中に入れておきたいらしい。こんな最悪な野郎に一日中べったり貼り付いていなくていいと分かって、ちょっとは気が楽になった。



ページ公開日: 最終更新日: