一、焚火たきび(3)

 つつがなく列は進み、俺の前の叔遜が予定通りはずれを引いた。俺も無造作にくじを掴む。ぜったいにはずれだろう。と思った瞬間、指先からゾッと悪寒が伝わってきた。……まさかな。気のせいだろう。考えすぎだ。俺は二の腕まで上って来た鳥肌を無視して首をぶるっと振りながら殊更に無造作にくじを引き抜いた。……。
「あっ、当たり~。」
くじ引きを取り仕切っていた奴が呑気な声で言った。いやいや、絶対ウソでしょう。さっき俺らが当たりくじ引いた時の相談をしていたのはほんの冗談だよ。なにもマジに当たんなくっていいす。俺は先刻の打ち合わせも忘れて呆然としながら叔遜のほうを見た。と、叔遜も呆然と俺のほうを見て、次の瞬間、
「あははは、やるな~! ほんとスゲエ!」
と大爆笑しはじめた。
「おい、ちょっと、これ。」
くじを手渡そうとするが、腰も砕けんばかりに大笑いしていて気付かない。
「コラ!」
涙まで流しやがって。笑いすぎ。
「はい、くじ引き終了~。正勤務兵は張季寧。」
「いや違うよ! 李叔遜。」
「あれ、おまえ季寧じゃなかったっけ?」
「いや俺は季寧だけど当たりはこっちの奴が。」
「なに言ってんだよ、交換不可。」
「え~、嫌だよ。おれ勤務兵なんて絶対ヤダ!」
「えっ、なになに? 当たり放棄すんなら俺にくれ。」
周りの連中がわらわらと集まってきた。
「下がれよ、それはもともと俺が季寧に引かせたんだ。」
「やめろやめろ! せっかく公平を期すためにくじ引きにしたんだぞ。交換不可だ。」
「じゃあ俺くじ放り投げるから最初に掴み取った奴が。」
「乱闘になるだろ!」
もめてる所に上官の陳屯長ちんとんちょうがやって来た。
「勤務兵は決まったか?」
「はい。正は張季寧、副は李幼信りようしん、補は王季礼おうきれいです。」
「いや違いますよ、正は李叔遜。」
「どっちなんだ。」
「どっちにするか話し合ってて。」
「まだ決まってないのか。早くしろ。もう隊長が部屋に入ったぞ。」
「ほら早く行けよ、季寧。」
「ヤダヤダヤダ、絶対ヤダ!」
「何をもめてるんだ。」
「こいつ当たりくじ引いたくせに不正を働こうとするんすよ。」
「なんとかしろよ、叔遜!」



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