一、焚火たきび(13)

底力ときた。たかだか餡餅シャンピンのために。横にいた叔遜がクスクスと笑い始めた。
「聞いた? 底力だってよ! 本気すぎ~。」
「なにマジになってんだかなあ。」
「馬鹿だろ。」
「たかだか餡餅シャンピンのためになあ。どんだけ食いしん坊だよ。」
声を殺して笑いつつも、屯長たちのやっていることを決してどうでもいいことだとは思っていない自分がいるのも確かだ。しばしの沈黙の後、焦燥に駆られて叫ぶ。
「……ぜってー食いてえ! 俺食えなかったら泣いちゃう。」
叔遜も真顔で答えた。
「じゃ屯長の指導力に期待しようぜ。」
まわりにいる仲間を見まわす。みんな異常に真剣な表情をしている。馬鹿だろ。日頃寡黙な王季信おうきしんがボソリと言った。
「一人でも食えない奴がいたらだめだろ。」
異常な緊張感のもと、目と目を見かわして頷き合う俺達。馬鹿だ。
 あの旨そうな餡餅シャンピンを俺達が一人残らず口にすることができるかどうか、それはひとえに俺達の団結力にかかっているんだ。一人でも仲間を欺く者がいたら、全てがだめになってしまう。確かに、さっき屯長たちが言っていたように、食べる食べないの問題ではない。隊長の鼻をあかしてやろうとか、そういう問題でもない。俺達は生死を共にする仲間なんだ。仲間を欺いて自分だけ二個食うような奴が一人でもいたら、だめだろう。

 黄屯長以外の屯長たちが、おのおの五十六人分の食材を受け取って部下たちとともに作業を開始する。命がかかっているわけでもないのに、真剣そのものだ。いや、事と次第によってはいずれ命にもかかわるかもしれない。まさか、たかだかちっぽけな餡餅シャンピンで。馬鹿すぎる。屯長がくどくどと説明するわけでもないのに、みんな事の重大さを理解した表情で孜孜ししとして取り組む。信頼を裏切る者が一名も出ないことだけを願って……。
 ああ~、いい香り。包んで焼くだけだ。こんなでっかい鍋をどっから借りて来たのかな。包んで焼くだけでも手間なのに、具材をみじん切りにしたり小麦粉を捏ねたりした隊長は、絶対に馬鹿だろう。焼けては取り出し、あちちちってなりながら全員分が揃うまで待つ。
 ついに奇跡の瞬間がやってきた。
「全員行き渡った?」
「バンザイ!」
「バンザイ!」
我が部曲、総員五百四名は今、万雷の拍手と感動のただ中にいる。泣いている奴までいる。苦労して手に入れた餡餅シャンピンは誰が包んだものか知らないが、ふくふくと牧歌的な風情を漂わせ、小ぶりながらもむっちりとした田舎の健康な気のいい娘さんのように、こんがりと焼けた肌を惜しげもなく輝かせている。俺は田舎の健康な気のいい若者らしく惜しげもなくかじり付く。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: