一、焚火たきび(10)

「さて、そろそろ火を点けよっか。点火したい人募集、先着一名様。」
「ハイッ!」
部隊内で馬鹿として有名な王仲純おうちゅうじゅんが真っ先に手を挙げた。この手の作業は、馬鹿な奴ほど手際がいいものと決まっている。職人のように無駄のない動作で見事に焚火を燃え上がらせた。
「おお~。」
「いいねえ~。」
みんな素直に焚火を見て喜ぶ。軍隊には娯楽が少ないからな。
「ウキウキしちゃうなあ。なんか歌おっか。」
隊長が子供のようにはしゃぎながら「生年不満百」を歌うように促す。
 生年不満百 常懐千歳憂
  (生年は百に満たず 常に千歳の憂いを懐く)
 昼短苦夜長 何不秉燭遊……
  (昼は短く夜の長きに苦しむ 何ぞしょくって遊ばざる)
夜も明かりをともしてせっせと遊ぼうぜ、って内容の歌だ。みんながごきげんで歌っている傍らで、隊長はせっせと餡餅シャンピンを包んで焼き始めた。
「何これ~。胡麻油の香り~?」
「超~いい匂い。」
みんなうっとりと鼻をぴくつかせる。
「なんか、スゲエ料理好きで上手らしいじゃん?」
「食ってみたーい。」
「でもあれ全員分あんの?」
「ねえだろ。士官だけじゃねえ?」
俺もその点が気になっていた。その時、隊長の口から思いがけない言葉が出た。
「ハイできたぞ、早いもん勝ちー。お一人一つ、先着五十六名様。」
「先着? 行けっ!」
みんな当然ながら餡餅の入った鍋に殺到する。危険極まりない。すかさず隊長の高笑いが聞こえた。
「ひゃっひゃっひゃっ、てめえら烏合の衆かよ。こういう時どうすんの?」
どうすんのと言われたって、そう仕向けたのはあんたじゃないか。隊長はふと俺に顔を向け、冷然と言った。
「張季寧、事態収拾しろ。」
「えっ、無理。」
「この次その言葉を俺の前で吐いたらぶっとばす。さっさとやれ。」
しかたなく半泣きで事態の収拾をはかる。
「並んで下さーい。」
無理だろう。



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